『総曲輪のバーとラウンジ』を振り返って ― 受賞をきっかけに見えてきたこと
『総曲輪のバーとラウンジ』が、FRAME Awards 2025 ショートリスト および
BIG SEE Interior Design Award 2026(ウィナーもしくはグランプリ)にて評価をいただきました。
富山で設計活動を行う中で、自分たちが当時考えていたことや、空間に込めていた意図が、
異なる地域や文化圏の中でも読み取っていただけたことを嬉しく感じています。
今回、受賞をきっかけに改めてこのプロジェクトを見返しながら、
計画当時に考えていたことや、今感じていることについて少し整理してみたいと思います。

当時は、このプロジェクトを全力で駆け抜けることに必死でした。
引き渡しまでの期間も短く、事業計画と設計を同時に進める必要があった中で、
とにかく目の前の状況に応答し続けることしか考えていなかったように思います。
OPEN当日のことは今でもよく覚えています。
当時は賞のこと、ましてや海外の国際アワードなど全く意識しておらず、
自分たちの仕事がそのような形で見られるとは想像もしていませんでした。
今改めて振り返ると、完成した空間そのものだけではなく、
当時の状況への向き合い方自体を評価していただけたのかもしれないと感じています。

この計画が動き始めたのは、2023年3月頃でした。
夜はBarに立ち、昼間は私たちが今でもよく通っている古着店で働いていた知人からの相談が、このプロジェクトの始まりでした。
工務店さんも含め、もともとそれぞれが顔見知りの関係性の中で進んでいったこともあり、
一般的な商業プロジェクトとは少し違う空気感があったように思います。
場所は、富山市総曲輪にある「あまよっと横丁」。
複数の海運コンテナで構成された飲食施設で、第51回富山県建築文化賞に入選していたこともあり、
竣工当時は富山の中でも話題になっていたのを覚えています。
設備業を営む施主は、すでにこの施設内で1店舗Barを経営していましたが、
その頃には全8テナントのうち3区画が空室となっていました。
原因は、やはりコロナ禍の影響が大きかったと思います。
緊急事態宣言が解除された後もしばらくは、街に人が戻ってくるまでかなり時間がかかっていた印象がありました。
運営会社と施主の関係性も良好だったようで、施設の5周年を迎える前に空き区画を埋め、
もう一度施設全体を盛り上げたいという双方の思いから、この計画がスタートしました。
最初のキックオフミーティングでは、想定開店日や予算、ターゲット層、メインとなる食材、お店としての強みなど、
設計を進める上で必要になる基本的なヒアリングを行いました。
ただ、返ってきた答えは、
「開店は2ヶ月後」
「予算はまだ分からない。きっと大丈夫。」
「ターゲットやコンセプトも決まっていない」
「メニューは来るお客さんの要望に合わせて変えていけばいい」
という、今振り返ってもかなり危ない状態だったと思います。
僕は、お店というのは店主やオーナーがこの日まで毎日悶々と考え続けるものだと思っています。
自分が何をやりたいのか、どんな場所にしたいのか。その答えに数日で辿り着けるものではありません。
それでも、このままでは何も進まない。
そんな思いもあり、望みを掛けてそれぞれ宿題を持ち帰り、後日改めてミーティングを行うことになりました。
結局、その時点でもターゲットやコンセプト、お店としての強みは明確には定まりませんでした。
ただ、そんな雑談のような会話の中で、当初の「あまよっと横丁」の話が出てきました。
相場より家賃設定を低くし、1店舗の出店可能期間を数年に制限することで、
出店のハードルを下げながら、テナントが循環し続けるフレッシュな施設を目指していたこと。
その話が、自分たちの中で少しずつ繋がり始めたことを覚えています。
と言っても、もうその1週間後には内装のコンセプトとプランニング案をまとめ、提案しなければならない状況でした。
気持ちは焦っていたと思いますが、それとは裏腹に2日ほどで大まかな方向性は見えていました。
あとは、とにかく手を動かしていたことを覚えています。
そんな状況の中で、よく使われる「フレキシブル」という言葉を、もう少し具体的なものとして捉え直せないかと考えました。
既存の海運コンテナが持つ「無骨で工業的な要素」と、ミーティングの中で見えてきた不確定で曖昧な状況を前提に、
まだ輪郭の定まっていない事業計画を空間側から先導していくことができないかと考えました。

まず、本来は下地材として使われる軽鉄を、仕上げ材のメインとすることを提案しました。
これは単に既存の要素に合わせたというだけではなく、次の出店者が現れた時に、
できるだけ初期費用を抑えながら更新できることも意識していました。
また、この選択には、将来ここに活気が戻り、当初この施設が目指していた
「テナントが循環し続けるフレッシュな場所」としての姿を取り戻してほしいという願いも込めていました。
さらに、この施設が持つ「テナントの入れ替わり」と、素材が次へと受け継がれていくことをどこかで重ね合わせてもいました。
軽鉄は、次の出店者にとって下地として利用できる余白を持った素材でもあります。

さらに、カウンターやテーブルの天板には海洋プラスチックから再生された素材を採用しました。
施設が更新されながら使われ続けていくことと、再利用された素材によって空間が構成されること。
その両方が重なるような空間を目指していました。
この選択には、工事種を減らすことで工期の短縮やコストを抑える狙いもありました。
プレゼンでは多少の調整こそありましたが、もともと顔見知り同士のチームだったこともあり、
この状況に対して否定的な意見は一切なく、提案はすんなり受け入れていただきました。
そしてここで、この計画期間中にもう一つ課題が増えることになります。
もう1区画も活用し、施設利用者が自由に使えるラウンジスペース(以下、ラウンジ)をつくりたいという話が現実味を帯びてきました。
コンテナ店舗は狭小空間であり、定員数を確保するためカウンター席が中心となります。
そのため、これまで団体利用の来客を取りこぼしていた経緯もありました。
そこで、バーで考えていた素材選定の考え方をラウンジにも持ち込むことにしました。
バーでは軽鉄を主な仕上げ材としていましたが、ラウンジではフレキシブルボードを仕上げ材を中心とし、
用途の変化にも対応できる余白を持った空間を目指しました。
一方で、施主から唯一要望として挙がっていたのが「掘り炬燵」でした。
掘り炬燵は、それまで考えていた無骨で工業的な空間とは対照的な要素でもあります。

そこで座面や建具の仕上げには、畳表の原料である井草を採用しました。
井草特有の触り心地や香りによって、工業的な素材で構成された空間の中に、
身体的な心地よさやリラックスできる時間をつくることができないかと考えました。
その後、図面の提出を終え、予算も決定しました。
各所へのサンプルやモックアップの制作依頼に加え、
見積金額が予算を超えることも想定しながらVE案の検討を進める一方で、現場では解体工事が始まりました。
しかし、工務店さんから見積書がなかなか上がってこず、契約関係の手続きや工期調整も重なったことで、
当初予定していた竣工時期は9月までずれ込むことになりました。
こちらとしては見積内容の確認や調整にはその都度対応していましたが、なかなか全体の工程が見通せない状況が続いていました。
とはいえ、工期そのものが延びたわけではありません。
むしろ、残された時間は相変わらず短いままでした。
着工後も定例会議の場は設けていましたが、施主が参加することはほとんどありませんでした。
やり取りの多くはLINEでの事後報告や確認となり、返答がないまま判断を迫られる場面も少なくありませんでした。
結果として、現場で起きる大小さまざまな課題に対して、その都度自分たちで判断しながら進めていくことになりました。
そして迎えた内装工事初日。
現場で責任者の大工さんと話をした際、思わず耳を疑いました。
多忙だったこともあったと思いますが、この日初めて図面を確認したというのです。
ずれ込んだ時間を少しでも取り戻したく、今回はいつも以上に詳細かつ多くの図面を描いていました。
材料の拾い出しや発注が少しでも進めやすくなればと思ってのことでしたが、その前提自体が成立していませんでした。
事前発注が必要な材料についても手配は行われておらず、その時点で発注しても間に合わないものも少なくありませんでした。
結果として、現場では代替品への変更や納期に合わせた調整を繰り返すことになりました。




まずは大工さんと一緒に図面を1枚ずつ確認しながら、何を目指しているのかを共有するところから始めました。
その上で、代替案をその場で考えながら、一つずつ前に進めていくことになりました。
引き渡しまでほぼ毎日現場へ通い、その日のうちに判断しなければならないことや、新たに発生する課題に対応し続けました。
正直、この規模のプロジェクトに対して費やした時間と労力は、今振り返ってもかなり大きかったと思います。
設計をしている時間よりも、現場で考え、判断し、図面を書き直していた時間の方が長かったかもしれません。
でも、やり切りました。
今振り返ると、設計事務所としてもっと早い段階で業務内容や契約条件について整理し、協議すべき場面もあったと思います。
その点は今後の課題として残りましたが、この時はそれよりも、とにかくお店を成立させることしか考えていませんでした。
図面を描けば終わりではないし、内装が完成すれば終わりでもない。
お店が開いて、お客さんが来て、その場所が使われ、街の一部になる。
そこまでたどり着いて、ようやく一つの区切りがつくのだと思っています。
そして迎えたOPEN当日。
その日は運営と日程を示し合わせていた「あまよっと横丁」の5周年イベントでもありました。
Barや居酒屋など夜の来店が中心の施設ということもあり、
昼間は比較的落ち着いていましたが、多くの関係者の方々が足を運んでくださいました。
工期がギリギリだったこともあり、竣工写真の撮影は昼間や営業の合間を縫いながら行うことになりました。
私たちにとって竣工写真の撮影は、単に記録を残すための時間ではありません。
たくさんの建築や空間を見てこられたカメラマンさんが、この空間をどう見て、どう感じるのか。
その率直な感想を聞くことができる貴重な機会でもあります。
また、OPENの日は関係者の皆さんから直接感想を聞くことができる日でもあります。
そして同時に、自分たちの手を離れていく寂しさのようなものを感じる日でもあります。
ここでも関係者の皆さんやカメラマンさんから、たくさんの労いの言葉や感想をいただきました。
その瞬間、それまで張り続けていたものがふっと緩んだような感覚がありました。
気付けば目頭が熱くなっていました。
この仕事に就いて初めてのことでした。
今振り返っても、自分でも少し驚いています。
それだけ、このプロジェクトに向き合っていたのだと思います。

当時は工期や予算に追われていて、正直そこまで自分たちの考えを言葉や文章として整理している余裕はありませんでした。
プロジェクトが完成した後、ホームページへの掲載や TECTURE・TECTURE MAG での紹介、
FRAME Awards や BIG SEE Awards への応募を通して、改めてこのプロジェクトを振り返り、考えを整理する機会がありました。
さらに、審査員のコメントや受賞という結果を通してもう一度見返してみると、
自分たちが当時何に向き合い、何を大切にしようとしていたのかを改めて言葉にする機会にもなりました。
審査員のコメントを読み返してみると、素材の選択や意匠そのものだけでなく、
それらがどのような条件や状況の中から生まれたのかという点にも触れられていました。
自分たちとしても大切にしていた部分だったので、その点を読み取っていただけたことは素直に嬉しく感じています。
コンテナという既存条件。
限られた予算。
短い工期。
コロナ禍によって生まれた空きテナント。
そして、まだ輪郭の定まっていなかった事業計画。
そうした状況の中で、自分たちが一貫して考えていたのは「フレキシブルさ」でした。
そしてもう一つ、施設や素材が次へと受け継がれていくことを意識していました。
軽鉄を仕上げ材として使ったことも、海洋プラスチックの再生材を採用したことも、単なる意匠的な選択ではありませんでした。
そこには「フレキシブルさ」と、受け継がれていくことへの意識がありました。
テナントが入れ替わりながら続いていく施設。
次の出店者が下地として利用できる軽鉄。
そして再利用された海洋プラスチック。
施設も、空間も、素材も、一度きりではなく次へと繋がっていくことをどこかで重ね合わせて考えていました。
また、複数の審査員が触れていた
「コストへの配慮」「再利用された素材」「制約条件への応答」といった言葉も、自分たちが当時意識していたことと重なります。
完成した空間だけを見れば、小さなバーとラウンジかもしれません。
しかし自分たちにとっては、与えられた条件や曖昧な状況を受け入れながら、
その中で何ができるのかを考え続けたプロジェクトでもありました。
今回の受賞を通して、そうした姿勢も含めて評価していただけたのであれば、とてもありがたいことだと感じています。

今回の受賞をきっかけにこのプロジェクトを振り返る中で、
自分たちが何に向き合いながら設計をしているのかを改めて整理することができました。
設計事務所の仕事というと、意匠や機能、使い勝手といった空間そのものに目が向けられることが多いように思います。
もちろんそれらはとても大切な要素です。
ただ、自分たちは設計を進める中で、それだけを見ているわけではありません。
空きテナントをどう活かすのか。
まだ輪郭の定まっていない事業計画をどう前に進めるのか。
限られた予算や工期の中で何を優先するのか。
コンテナによって構成された既存施設との関係をどう考えるのか。
その場所がこれからどのように使われていくのか。
周辺環境や地域との関係をどう捉えるのか。
目の前にある人や場所、そして社会が抱える課題に対して、自分たちなりにどう応答できるのか。
設計とは、そうした様々な問いに向き合いながら、自分たちなりの答えを探し続ける作業でもあるのだと思います。
今回のプロジェクトでは、「フレキシブルさ」という言葉を手がかりに設計を進めてきました。
しかしそれは、単に空間を可変的にするという話ではありませんでした。
人も、事業も、場所も変化していく。
その変化を前提として受け入れながら、その時々で最善と思える選択を積み重ねていくこと。
自分たちが大切にしていたのは、その姿勢だったのかもしれません。
今回、FRAME Awards と BIG SEE Awards という二つの異なる評価軸の中で評価をいただけたことは、とても嬉しく思っています。
同時に、自分たちが普段取り組んでいることや大切にしていることを改めて振り返る機会にもなりました。
今回の受賞は嬉しい出来事でしたが、それ以上に、自分たちが何を大切にしながら設計に取り組んできたのかを改めて確認する機会になったように思います。

このプロジェクトに関わってくださった施主、工務店、職人の皆さま、運営の皆さま、そして日々利用してくださったお客さまに改めて感謝申し上げます。
ありがとうございました。
ジュンペイ
